会長挨拶
第51回東北腎不全研究会学術集会
会長 風間 順一郎
福島県立医科大学 腎臓高血圧内科 教授
わが国で維持血液透析療法が始まってから今年で約60年です。今年で第51回を迎える東北腎不全研究会は、その維持血液透析の歴史をおおよそカバーしてきたといえます。この前半期、日本の経済は成長し、人口も増え、透析を始めとする慢性腎不全治療はソフトの点でもハードの点でも目覚ましい発展を遂げてきました。その流れに陰りが見えてきたのは30年前、いわゆるバブル崩壊の時期からでしょう。経済の停滞と時期を同じくして我が国の人口は減少し始め、深刻な労働者不足に苛まれるようになりました。政府の財政も悪化し、いつまで現在のような手厚い医療や社会保障へのサポートが得られるかは疑問です。
誰にもわからない未来ですが、一つ確実なことは、このままではいけないということです。腎不全医療、特に透析医療は、高度経済成長期に描かれた青写真を基本として、それを逐次改善するという戦略で発展してきました。患者を幸せにすることに注力すれば、それなりの見返りがもらえて、だから医療スタッフも幸せになり、このサイクルに魅かれて若手もどんどん参入してくる。この基本スキームは経済成長と豊かな労働力の供給をその前提としています。だから現代では崩壊するのが当然ですが、本当は崩壊したのは最近の話でもありません。30年前から世の中は変わり始めていたのに、我々は従来の認識でこれを凌ごうと奮闘して、糊塗できなくなったのが近年だというだけです。善意や情熱だけではどうにもなりません。変わってしまった世の中で変わらずにいることには限界があるのです。
経済活動としての透析診療はもはや成長産業ではありません。メーカーは既に国内マーケットを見限っています。そこで無理に成長しようと背伸びをしてもバブルが弾けて負債を抱えるリスクと背中合わせです。これからの腎不全治療は「スタッフに過度な負担がかからないよう地道に持続可能な枠内で慢性腎臓病患者の幸せを希求することを目指す」というスタイルになっていくのではないでしょうか。
コストや人手をどこまで減らしてもサービスの質を維持していけるか。それは経営というより腎代替療法の持続性に繋がる問題です。その意味でも遠隔医療やAIの導入はこれからの腎代替療法に不可欠です。また、施設のキャパシティを削ることなく患者の満足度を高められる腎移植や家庭透析はもっと積極的に推し進められるべきです。その一方で、ニーズが増えている終末期医療には貴重な医療リソースを現在よりも更に投入せざるを得なくなるでしょう。そして「慢性腎臓病患者の幸せを希求する」ならば「腎死に至らないこと」が第一ですから、腎代替療法と保存期治療はシームレスに考えていかなければなりません。
このように、将来の腎不全医療は、その哲学から根本的に見直される必要があります。過去に引きずられるのではなく、未来を見据えた現代でなければなりません。それが薔薇色に見えるか灰色に見えるかは、そこにどうやって向き合っていくかに大きく左右されます。
そんなことを考えながら今回の大会プログラムを組みました。皆さんと共に未来を真剣に考えていく会でありたいと願っています。
2025年9月吉日